一阿はここで前に述べた昭和精神史の最後のところに出てくる「伊東静雄」の詩を口ずさみます。
夜来の台風にひとりはぐれた白い雲が
気のとほくなるほど澄みに澄んだ
かぐはしい大気の空を流れてゆく
太陽の燃えかがやく野の景観に
それがおほきく落とす静かな翳は
・・・・さよなら・・・・さやうなら・・・・
・・・・さよなら・・・・さやうなら・・・・
いちいちそう頷く眼差のやうに
一筋光る街道をよこぎり
あざやかな暗緑の水田の面を移り
ちひさく動く行人をおひこして
しづかにしづかに村落の屋根屋根や
樹上にかげり
・・・・さよなら・・・・さやうなら・・・・
・・・・さよなら・・・・さやうなら・・・・
ずっとこの会釈をつづけながら
やがて優しくわが視野から遠ざかる
伊東静雄(夏の終り)
この詩が発表されたのは昭和21年8月、敗戦より1年目の夏でした。
(続く)
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