【銀座ヨーソロ】一阿の言の葉 第43話

銀座に、昔ヨーソロ(宜候)という海軍バーがありました。ヨーソロとは、宜しゅう候、ある目標に直進する。と言うことです。
富士山ヨーソロとは富士山に艦首を向けて直進するです。

若い頃は、一杯!ヨーソロ、でよく通ひました。
ここの支配人は金森幸雄さん、海軍での階級は上等兵曹です。
彼はエスポアールの支配人だったのですが、我々金の無い者の為に、ガンルーム(士官次室)に似せてヨーソロを作りました。

エスポワールは昭和23年12月15日と言う、 戦後間もない頃に、うぶ声をあげました。
銀座にMPなる白いヘルメットを被った、 進駐軍の兵隊がウロウロしている時代です。

ここには政界、財界、文芸、各界の人々があつまりました。
他に行く店も無かった時代です。
小林秀雄、田辺茂一、永野重雄、中山素平、池島信平、横山泰三、池波正太郎、石田博英、加藤芳郎、白州次郎、芥川比呂志、東郷青児、井上 靖、吉田健一、亀井勝一郎、大仏次郎、三島由紀夫、 といった面々です。

講和条約前後には吉田(茂)学校の人達もちょいちょい顔を見せていました。
金森さんは人生の裏も表も熟知していましたが、一切喋りませんでした。
無口で、誠実で、穏やかな人柄でした。

彼とは何故か気が合ひました。ヨーソロの、戦艦「大和」の珍しい角度からの絵と、栗田長官の筆になる「五省」のあるガンルームで、時々ボソリと彼の口から漏れる言葉は、貴重でした。

小林秀雄のこと・・・エスポアールの名物女将、るみ子ママは津村節子に言わせると
「銀座と言う場所は浮沈の激しいところ、素人同様のるみ子さんが店をまかされて一年で黒字どころか借金まで返したというのは、天性この商売が適していたと言うべきだろう。
美しいばかりでは、バーのママさんは務まらない。お客達は、昼の仕事の疲れ、いらいらを解消しにバーに来るのである。

その点るみ子さんの頭の回転の良さ、明るいウイットに富んだ話題と話術は、女のわたしでさえいつまでも話していたいほど楽しい。」と言うことになります。


(続く)

2010年02月22日

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